旅行記
2013/09 水平歩道
水平歩道とは、黒部ダム建設時に、欅平から上流の黒部川沿いに、
物資輸送用として建設された登山道の通称である。
そもそもこのエリアは、黒部川の電源開発のために、
いくつもの発電所およびダムを設置することになった。
黒部中上流エリアは年間降水量が屋久島(4,000mm)を上回る5,000mm、
豊富な水量と、急勾配は、水力発電に最適とのこと。
しかし、どれも壮絶な工事となったようで、
技術屋(特に土木屋・機械屋)なら一度はみておいて損はない。
これらの背景を予習してから行けば、
単に「中国のような怖い道」ではないことがよくわかるだろう。
今回の登山計画書を見たうちのオヤジ(こちらも土木屋)も、
これは面白そうだなあとか言っていてわろた。
今回の行程は、以下のとおり。カッコ内は交通機関利用。
0日目:(東京→宇奈月温泉)
1日目:(宇奈月温泉→)欅平→阿曽原温泉
2日目:阿曽原温泉→十字峡→阿曽原温泉
3日目:阿曽原温泉→欅平(→宇奈月温泉→東京)
0日目

深夜の高速道路を安全速度で爆走して一気に富山へ。
燃費重視のために80〜100kmh程度を維持。

今回の車はカローラフィールダー(1.5L、5人)だが、
3人乗車なので70Lザックをトランクに3つ搭載しても広々だ。
既に後席では毛布に包まって体力温存のため熟睡中だ。
(徹夜での運行でも、運転者の眠気防止のため、
助手席だけ起きれてば十分だ。)
1日目

徹夜で運転して富山県の宇奈月温泉に到着。
距離400kmオーバーはなかなか疲れたところだが、
高速バスのガイドライン的にはまだ1人運行が可能な距離。
とはいえ眠いので1時間ほど仮眠する。

ここから欅平までは黒部峡谷鉄道で1時間20分。
観光列車のようだが眠いので熟睡する。

では、欅平から準備をして出発。

あちらは唐松岳方面か。


標高800m前後の黒部川沿いの岩壁を水平にくりぬいており、
道幅は60cm〜1m程度で、以前より転落事故が続出しているところ。

すごい道路である。
こういった大量の死者を出す前提の工事は、もう今となっては不可能だな。
安全な施工方法はとうてい思いつかない。

とはいえ、高低差はないため要する体力は少なく、
登攀的な要素もなく、技術的な難易度は低い。
とはいえ、道を踏み外すと100m単位で垂直に落下するため、
変なところで転ばない注意力を常時維持することが求められる。

深いV字峡では、谷底まで太陽光が届かず、
冬季の猛烈な積雪が溶けないため、通行可能なのは、
残雪が溶ける9月下旬から、次の降雪が始まる10月下旬の1ヶ月程度だ。

途中で沢を渡る部分は延長150mのU字型の隧道となる。
まっくらでヘッデンが必要。1人だとめっちゃ怖そうだ。
当然素掘りだが、トンネルの構造物そのものは頑丈だろうが、
万が一地震があれば前後の入り口を塞がれる恐れもある。
早めに通過したいところ。

並行して関電専用鉄道が運行されており、
山小屋にも駅があるため、物資は豊富で、非常時に鉄道輸送が可能。
山小屋付近には、高熱隧道という、160℃程度の高温の岩壁を、
100人以上の死者を出す難工事となりながらくりぬいたトンネルがあり、
ここから湧き出す水がそのまま温泉となっている。


山小屋(阿曽原温泉小屋)。
収容50人で小規模だが、30張りのテント場があり結構広い。
レベルが高い山域なのでテント泊のほうが人数が多いようだ。
しかし、そうするとピーク時(晴天・休日)でも100人程度で、
通行可能時期が1ヶ月〜40日くらいしかないため、
平日休日・晴天雨天の繁閑も考えると、年間1000人くらいの通過だろうか。
そうすると、下ノ廊下では年平均1人くらい死者が出ているため死亡率0.1%。
積雪期の赤岳(@八ヶ岳)と同じくらいか。

さっそく別荘を建設する。

いつもの3人用テントを1人利用だが、
今回のように軽量化が求められる山行だと重くて困ったもんだ。
ただ、標高800mの9月なので、寝袋はモンベル#3で十分暖かい。

500円で風呂に入ることができる。
13時〜20時の時間帯は、1時間交代の男女入替制だ。
風呂は8畳程度の広さがあり、10人以上が一気に入浴できる。
洗い場は当然ないが、源泉と沢水を適度な比率で混合すれば、
頭から被って汗を流すくらいはできそうだ。
2日目

今日は、軽装にて十字峡までの往復である。
樹木があると安全そうだが油断せずに。

途中で仙人谷駅を通る。
ここには関電の寮があり、下界並みの生活ができていそうだ。
物資輸送用の列車が毎日1往復あるようだ。

一部はこんなところが登山道となっている。

仙人谷駅。

管理所の横を通る。なおトイレもあるようだ?。

ダム湖の色が不思議な感じだ。

非常に怖いと評判のつり橋。
下界の基準に基づき設計されているため、
本体構造物は頑丈で安心感は高いが、
踏み板が薄く、また、なにぶん渡る高度が高く、なかなか怖い。
なお1人ずつ渡るようにとのことで、
先行者やすれ違いが居ると時間がかかりそう。

黒部第四発電所。
山奥にこんな大規模な施設があるのは違和感があるが、
どうやって施工したのかが非常に気になるところ。
まあ、内側からくりぬいて作ったのだが。

仙人谷〜十字峡の間にある、半月峡はかなり峡谷が切り立っており、
落ちたら命はなさそうな雰囲気となっている。
おかげで同行者がだんだん青い顔になってきた(ヤバイ)。
なお僕は、長めのスリングにカラビナ(25kN)×2を通し、簡易ハーネスとした。
危険な場所は、手すり代わりに太い針金が2本通してあるため、
これに確保すれば、万が一足を滑らせても、(相当痛いが)落ちることはない。
超危険ポイントなどで数回使用したがなかなか安心感があって良いな。

実際には、写真ほどは怖くないのだが、多人数とすれ違うときや、
雨に降られた場合は地面が滑りやすく非常に怖そうだ。

十字峡に到着。

小さい広場があり、幕営や焚き木の痕跡がある。


ここもなかなか秘境感たっぷりの場所で恐ろしいな。
合流はそれぞれ剣沢小屋(左)と、冷池山荘あたりを源とする沢(右)である。
どちらも行った事があるが、そんな場所の水がこんな所まで来るんだな。



足元はこんな風に100m以上の垂直の絶壁だ。



休憩したので撤収する。
帰りは来た道を戻るだけなので気楽なもんだ。
途中、丸太を踏んでコケそうになるトラブルもあったが、
最後まで気を抜かないことが必要だな(命を守るため当然だ)。

我が家に戻ってきた。風呂に入り、飯を食べ、18時就寝。
3日目

今日は阿曽原温泉から欅平まで撤収するだけである。
4時40分起床、5時40分出発。


同じ道も反対側から通るとまた違うように見えて面白いな。

欅平に戻り一安心。

黒部峡谷鉄道も面白い。

ホテルニューオータニで風呂に入り、高級ランチにする。
非常においしそう。
おまけに危険な場所から帰還したこともありやりとげた感があるな。

その後は、行きと同様に車で帰還する。
燃料を補給したところ、750km走行時で47Lであり、16km/Lだった。
3人乗車で重かったとはいえ、
高速道路を80kmh程度であり燃費にはよかったか。
(カタログ値は、4WDモデルのため15km/Lと思われる。)
以上、無事に帰還。総費用30k(うち減価償却費等5k)。
写真のうち多くは友人撮影、多謝。撮影機材NikonD7000。
黒部の秘境の絶景と、
日本の土木史に残る史跡(施設は今でも供用中だが)、
両方を同時に体験でき、充実した山行だった。
非常におすすめだ。