旅行記



2010/07 妻沼滑空場


”空飛ぶ巫女が、本当に空を飛んでみた”




妻沼滑空場は、利根川の河川敷にある、
1500m×100mの巨大な滑走路を持つ場外離発着場である。
休日はグライダーを楽しむ人たちで賑わう。

今回、友人を通じて地元の名士のツテにより、グライダーに搭乗することができました。
関係者には大変感謝を申し上げます。



非舗装の滑走路であり、かつ常設の空港施設は何もないため、
朝8時に集合して、滑走路の草刈、管制センターの設営などを行う。
(かなりの重労働である。僕は吹流しの設置くらいしかできなかった)

なお、管制は「めぬまフライトサービス 130.500MHz」である。
今回の管制官は大学生が勤める。
(この管制は国土交通大臣の命令に基づく管制ではないため、
 強制力はないのだが安全確保のためには絶対に従うこととなる)

また横田基地(横田ラプコン)・入間基地・東京コントロールとの
連絡調整及びトラフィックの確認を行い、
安全を確認したうえで全員集合し空域の情報を伝え、10時に滑走路の運用を開始する。

なお、ウィークエンドということで、横田及び入間の軍用機のトラフィックが少ないため、
今回は4,000ftまでが管制圏内となった。
(特に入間基地からのGCAレーダー誘導のグライドスロープが
 妻沼まで延びており、これが高度の上限となっている)


なお、これ以上に上昇することも可能であるが、トラフィックの調整が必要だし、
5,000ft以上は熊谷NDB〜日光NDBを結ぶジェットルートになっているので、
高速の航空機が通過する可能性があり極めて危険である。
 #高速機から低速のグライダーを発見するのは困難である。
 #また小型でFRP製のグライダーはレーダーに映り難い。
 #あと赤外線誘導の対空ミサイルに対しては完全にステルスである。

また低空ではヘリが来る可能性があるため、管制との連絡を密にする必要がある。
自衛隊から130.500MHzに連絡が入ることもある。
連絡が入った場合、「東側に2機、グライダーが飛行中です」などの情報提供を行う。

滑走路は、1500m×100mであるが、
実際にはグライダーや曳航機の離発着には500m×40mで充分であるため、
分割して、A・B・C・Dの4つのクロースパラレル滑走路として運用する。
それぞれ、アルファ・ブラボー・チャーリー・デルタの呼称。

なお、今回はJA4083の曳航機を要請してある。
これに引っ張っていってもらい、最高高度4000ftで離脱することとなる。
曳航機のコールサインは「ハスキー」。

なお、グライダーのタクシングは当然人力なので、3人が必要でこれも大変である。



今回搭乗する機体は2人乗りのダンデム機だが、自重は360kgと軽量。
失速速度は55km/hとかなり低速特性にも優れる。
制限荷重は、+6.5G〜−4.0Gと、「兵装した戦闘機並み」
ただし耐空証明の関係から、+5.0Gが限度となる。

他の人の操縦では、宙返りをやってみせた。
荷重は4Gくらいか掛かっていそう。

屈強な大男では高Gには耐えることができない。
だから空を飛ぶ魔法少女は小柄な女性なのである。



曳航機に引っ張られて離陸。
高度1,800ftで曳航索を切り離して離脱、ソアリングに移る。
同時に管制に、「○○(コールサイン)、離脱、高度600」と連絡。
なおこれはメートル法でのやりとりになる。
エンジン音がなくなり、風を切る音だけが聞こえてくるのは、不思議な感覚。

早速、ストールを試す。
50km/hになったところで荷重が抜けてストールする。
30kt以下で飛べるんだからすごい。



計器類。


いい感じのサーマル(上昇気流)を発見したので、
高度1200ftから1800ftまで上昇する。



隣にも上昇気流に便乗する機体が。
このくらいの接近は接近とは言わないそうで、
ブルーインパルスばりの接近飛行もやるとか。
低速なのでかなり接近しても大丈夫とのこと。



戦闘機のような全面視界があるのは、かなり面白い。
まさに空を生身1つで飛んでいる感覚になる。
これはくせになりそうだ。



妻沼滑空場が見える。
こう見るとかなりでかいな。



翼が細長いため、アドバースヨーが大きく、ラダーの操作量はかなり多い。
(後席にも前席と連動した操縦系統があるため、どんな操作をしているかはわかる)
また、慣性が大きいためエルロンの効きが悪く、特に低速ではかなりの操作量となる。




30分経過すると、管制より帰還せよとの指示。
ランウェイデルタにランディングしろとのこと。
下を見てランウェイがクリアになっているのを確認。


着陸コースに進入する。
普通、旅客機ではILSで3度のパスで降下する。
グライダーの場合、滑空比は30以上あるので2度のパスでちょうどいいくらいだが、
万が一滑走路まで届かなかったりしたら大変なので、
逆に6度くらいのかなり高いパスを維持し、
スポイラーを立てて高度を殺しながら滑空することになる。
それでも高い場合、ラダーを踏んでスリップさせながら降下する。

このスリップ状態を維持するのは、
フラットスピンになりそうでなかなか気味が悪いのだが、
この程度では全然大丈夫なんだそうな。
ラダーを一杯踏んで、逆方向にエルロンを一杯に切るとどうなるかはわからないが。




接地時には60km/hくらいまで減速するので、
着陸はかなりスムーズ。



無事に着陸。



こちらは曳航機のハスキー。
なかなかオンボロな感じだが毎日たくさんの離発着をこなしている。



こちらの後席に乗せてもらったが、これもなかなか面白い。



はるか遠くには東京の高層ビル群と、東京スカイツリーが見えた。



後ろにはグライダーがくっついてきている。
「いいだろう!おまえに高度と速度を授けよう!」



利根川はでかい。


着陸する。
非舗装の滑走路はなかなか不安な感じであるが、結構大丈夫なもんだ。

その後は、管制の運用を終了し、センターを片付けて、グライダーを格納し、
後片付けに1時間半を要して終了。
これもなかなか重労働だ。

空港では、こういうグランドスタッフに支えられているからこそ、
空を飛ぶことができるんだな。
普段は飛ぶだけだが、こういう地上整備も行ったことで、
より空に対する理解が深まった気がした。


以上、無事に終了。
高価な機体に搭乗させていただき、関係者の方には大変お世話になりました。


参考
フライトシミュレータXによるシミュレーション。
(C)Microsoft



こんな感じで曳航されて離陸する。
曳航速度の制限が180km/hなので、あまり高性能な飛行機に引っ張ってもらうのは不可。
でも例えばドルニエ226に引っ張ってもらって、高度7000mで離脱!とかはできそう?



日本記録は高度11,000mである。
ジェット機並みに高い高度まで上昇することが可能なのだ。
ただし上昇気流がなくなる成層圏までは行くことはできないので、
このくらいの高度が理論的にも最高高度になると思われる。
もちろん、酸素供給装置やトランスポンダを備えた機体だそうだ。