旅行記



2010/03 八ヶ岳(赤岳2,899m)


「日本で一番高い宿」に泊まってきました。

冬季であれば、標高2720mの「赤岳天望荘」が最も標高が高い宿泊施設となる。
厳冬期は日中でマイナス10℃、最低気温でマイナス30℃に達することもあり、
風速は30m/s程度が普通で、更に強いときもあるという。
マイナス30℃で30m/sであれば体感気温はマイナス55℃となってしまう。
というわけでかなり極限の環境であり、
宿泊施設が営業している環境としては、日本国内ではこれ以上厳しいところはない。
去年も行っていて今回も是非行ってみたいということで、行くことにした。

なお、赤岳は死亡率0.1%程度であり、生半可な覚悟で行くのは薦められない。
まさに生と死が交錯する場所であり、現に今年はもう2人亡くなっているのである。
(何かある=死亡なので、怪我人はそんなにたくさんは出ない)
なぜそんな無用な危険に身を投じるのか?と言われるが、
それでもなお、ここでしか見られない世界も、あるのである。

装備について
通常の登山装備に加え、以下の装備が「必須」となる。
・ピッケル
通常の軽量タイプ(Basic=Bの刻印がある)でも十分だが、
シャフトが曲がっており強度があるタイプ(Techinical=Tの刻印)のが安心?
実際には軽量タイプを使っている人が多かった。
ピッケルなしで行くのはほぼ自殺と同義である。
・アイゼン
10本刃以上が必須。
先端の2本だけで全体重を支えることもあるので、
装着が甘くなってないか要確認のこと。
・目出し帽、ゴーグル、サングラス
強烈な風の中を歩くので、肌の露出部分があると凍傷になる危険があるほか、
雪が高速でぶつかってくるので超痛い。
この弾幕を顔にまともに食らうと針で刺されたように痛い。
・ロープ
殆どの人はロープを使わずに登攀していたが、
安全を重視する場合や初心者がいる場合はロープが必要となり、
3パーティに1つくらいは使っていたように思える。
ロープに体重を掛けて懸垂下降とかをするわけではないので、
細い補助ロープで十分である。
固定用のカラビナも1人1〜2つは必要。
ロープの引張強度3kNに対しカラビナは少なくとも8kNの強度は有するので十分。
というか3kNでも中の人がかなりヤバイことになるので問題なさそう。
今回は、5mm×15mの補助ロープを持参。
・耐寒装備
強風低温なので耐寒装備は必須であるが、
例えば下界で0℃になる程度の保温性の服であっても、
運動中は意外と暖かいので平気である。
しかし手だけはどうにもならず、
オーバーグローブがないと速やかに冷却され凍傷になる。

元々はホテル千畳敷で「優雅な雲上の宿で過ごす休日」になる予定だったのだが、
ホテルが満室で、松本行スーパーあずさの中でどうしようか考えたところ、
いきなり赤岳天望荘に決まったのであった。
とはいえ、ホテル千畳敷から木曽駒ケ岳(2956m)に登る予定だったので、
難易度的には似たようなものか、若干赤岳のほうが難しいくらい。

ルート概要図

まずは登山口の美濃戸口(1500m)からスタート。
ここからは4kmの林道歩きとなり、車なら林道を走れるので大変だるい。
冬まっさかりだと4WD+スタッドレス+チェーンが必要のようだが、
今の状況ならなんとか普通車でも進入できそうな感じ。


美濃戸(1700m)。
ここが車道終点であり、
赤岳アタックのベースキャンプ(BC)になっている。



そこからは登山道を行く。



行者小屋(2340m)。
赤岳アタックのキャンプ(C1)になっており、テントが多数設営されている。
たぶん明日の朝に一気に赤岳にアタックして、
そのままテントを撤収して下山にかかる1泊2日のプランであろう。
ちょうど穂高岳の涸沢みたいなイメージだ。




ここから先は極めて危険な地蔵尾根である。
安全のため一応ロープが必要という程度の難易度で、
60度の斜面をトラバースしたり、50度くらいの斜面を四つんばいで登ったりと、
アイスクライミング初歩くらいの感じがありそう。



核心部分を前にして、スタカットクライムの練習をしておく。
AとBの2人がいる場合、Aが移動中はBは支点に固定しておく。
その後、Aがロープの長さ分を動ききったら支点に固定し、Bが同様に移動する。
ロープの安心感は抜群で、物理的に地面に接続されており落っこちても大丈夫、
ということからかなり大胆に行動できる。
こういうのはビビると腰が引けてしまい逆に危険だったりするので、
このくらい余裕をもってやるほうがいいのかもしれないな。
なお先行のパーティ2人組みは、通常の9mmロープを使用していた。


この地蔵尾根は平均斜度でも70%ほどであり、
瞬間最大的には100%を超える部分もある。
かなりビビりながら進むが頂上直下のリッジはかなり怖く、
ネットの報告だとここで敗退した人も居るようだ。
リッジを抱え込むようにしていけば、
もし足場が崩壊しても即墜落にはならんとは思うが、
やはり安全のためロープによるスタカットクライムが必要であろう。


で、きつい登攀を終えて稜線に出る。
地蔵尾根の看板が見えたときは思わず「ついた!!」と歓喜の声をあげる。


しかし稜線は今度は32m/s(気象庁による数値計算値)の猛烈な風に叩かれる。
空気は多少薄いので、55KIASくらいの風であるが、
55KIASといえばフラップアップでセスナ172が離陸できるくらいの風である。




稜線から5分で赤岳天望荘に到着し、何とか逃げ込む。
まずはチェックインする前に氷まみれの装備を部屋に置いてきて、
凍結した衣類を乾燥室において乾燥させる。
その後、ホットコーヒーを飲み体温を回復させる。最高に暖かい。至福の瞬間。

その後チェックインする。個室利用で1泊2食付11,000円。
2人で2畳の部屋である。



小屋の内部は相変わらずかなり快適な環境になっている。
大部屋には何故かノートPCが10台もあり、公共用インターネット端末もある。





スタッフの中の人がネットをしていたが回線速度は結構速そうだった。
(ちなみにPCはレッツノートW2である。
 苛酷な環境への耐性に定評があり、かつ軽量・低消費電力であり妥当)
下界と同様のネット環境を実現しているのはすごい。
ちなみにノートPCが中心なのは、消費電力によるところが多いと思われる。
過去に考察したように、山小屋では1kWh=1000円くらいの電力コストになるので、
100WのPCを1日18時間つけっぱにしておくと、月54,000円になってしまう。
従って、消費電力の削減は至上命題である。
レッツノートはディスプレイ込みで15Wくらいで動くので、
多少値段が高い低消費電力システムでもすぐに元を取ることができる。

また、同じ性能であれば普通はノートPCよりデスクトップPCのほうが安いが、
ヘリで輸送するときのコストを考えると、
モニタ込みで7kgのデスクトップPCより1kgのノートPCのがいいかもな。
バッテリーも、電力が不安定な山小屋に適するだろうし。

もちろん、ブラウン管TVはなく、全て液晶TVとなっている。




服は過冷却の水蒸気が衝突するといきなり氷になるため、バリバリに凍りつく。
で、これを室内に持ち込むとビショビショになるので乾燥させる。



風力発電と太陽光発電のコンソール



夕食はいつものバイキングだ。
山菜等の山の幸をふんだんに使った料理だが、
森林限界以上にはあんまり山の幸はない。




部屋はこんな感じ。
2畳で狭いが、気温も氷点下だし狭いほうが暖かい。
ザックについた雪はさっぱり溶けないでサラサラのままである。

外は相変わらず暴風雪で全く外に出られない。
マジで吹き飛ばされそうで困る。
で、19時程度には疲れたので就寝。
ホッカイロが無料配布されたおかげもあってかなり暖かく寝ることができた。
「日本で一番高い宿」はやはり快適である。



朝は快晴であった。
いや、正確には下界は曇りである。
数値計算結果では24m/sの強風でありかなり寒い。




風力発電もバリバリに凍り付いている。




日の出



朝日に照らされる赤岳。
こういう風に見えると、ここを登るのはなかなかビビる。




記念撮影



富士山が綺麗に見える



高空を飛行機が通過する。



朝でも小屋の中は快適だ。



このへんも相変わらず。



朝食を食べる。
朝食は6時半から。
バイキング形式で食い放題なのは夕食と同じ。




準備をしていざ進行。




途中に何回か緊張させられるところもあるが、地蔵尾根に比べればたいしたことはない。
コンティニュアスによる登攀ができれば安全だが、単独でもほとんど問題ないだろう。




よい天気である。




下の文三郎尾根からは多くの登山者があがってくる。
おそらく行者小屋C1から上がってきたパーティであろう。
転んだらアウトなほど斜度があるが、上から見ると更に怖い。




こえーーーー



無事に頂上まで到着だ。
感動もひとしおだが、くだりが心配であまり喜べないのが難点である。




三角点



下界はかなり良く見える。
写真は諏訪湖。



赤岳鉱泉。
冬は温泉には入れないという噂。



横1400pixのワイドでアップ。360度の絶景である。



行者小屋。



で、入手した情報および実際に登ってきている人も多いので、
文三郎尾根を下ることにする。
まぁ危ない箇所はロープを使えばいいし。

つーか顔をモザイクで隠そうと思っても隠すほど肌が露出しておらず意味ないわな。


ビビりながら通過する筆者。
ちなみに登りの人は9割がロープなしで行っているので、
地蔵尾根よりは難易度は低そうである。
ただ、地蔵尾根の場合はヤバいならば赤岳天望荘に逃げ込めるのに対し、
こちらは頂上を経由しないと天望荘には行くことができない。
セーブポイントがあるという点では、地蔵尾根のほうが優れる。



で、かなり怖い部分もあるが、もう鎖が出ており、
超デンジャラスなところは鎖につかまることができたので、
無事に通過することができたが、
もし鎖が積雪で埋まっていたらスタカットクライムが必要であろう。





烈風で雪煙が上がり、太陽に照らされてダイヤモンドダストの如く輝く。
美しい光景ではあるが、これからの下りを考えると素直に感動できない。




無事に行者小屋まで降りてきた。
樹林帯まで戻ってくると緊張から開放される。
日帰り組みは行者小屋までやっときてこれから頂上アタックというところだが、
既に行者小屋にC1を設置してアタックを終えた組はもう安堵の乾杯をしている。
我々も、雪稜登攀装備から雪山ハイキング装備にチェンジし、
あとは登山口まで戻るだけである。




阿弥陀岳が綺麗である。



バスの時間には余裕があるので、ゆっくりと戻る。
天気が良いと景観は全く異なる。
同じ道を戻っているのか不安になるほど。




美濃戸のBCでは多くの人で賑わっていたが、
われわれはここから更に登山口の美濃戸口まで戻らなければならない。




無事に帰還。
風呂に入り、昼飯を食べ、茅野駅までバスで戻る。
風呂に入るとなぜか疲れがどっと出て、バスの車内では眠ってしまった。




茅野駅からは特急あずさで戻る。
ピッケルなどをくっつけたザックを電車で輸送するのは気が重い。
茅野から乗ればまだ自由席に座ることはできる。
隣を併走する中央道はもう渋滞していた。




途中からは綺麗な八ヶ岳の山容が見える。
最高峰の赤岳(2899m)は奥に隠れてしまい、見えるのは権現岳(2715m)である。
下山後に見る山は美しいが、
こういう危険なクライムは年1回くらいまでにしておこうかなと思った。

なお、この日、僕らが登った赤岳で2人が滑落し、骨折、ヘリで搬送されている。



以降、無事にあずさは定時に新宿へ帰還し、
その後、博麗神社例大祭(
http://www.reitaisai.com/ )に参加した組と合流し、
焼肉パーティーとなる(僕はだいたいキノコばかり食べるが)。
うまい焼肉は生きて帰還したことを実感させてくれ、うまさも倍増である。
で、結局家に帰ったのは深夜であった。